Y's DIARY

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2013年度下期スタート

 2013年10月1日(火)

 2013年度下期スタート。

 ついこの前「1年の半分がもう過ぎたのか」と思っていた気がするのに、それからもう3ヶ月経った。

 早いなぁ、月並みな感想だけど、時間が経つの早いなぁ。

 もっと言うとさぁ、会社に入って4年半だよ。4年半前と何が変わったかって、何も変わってないんじゃないかっていうね……。

 成長してるんかね、俺。
 このままだと確実に何を成すこともなく、平々凡々とした人生だよ。

 ……。

 大井町に土地買うってやばいっすか?

 うわぁ、頑張ろう。ビッグになろう。

第9話「青い春、夏の屋上にて」

 第9話「青い春、屋上にて」

 「これ、青春じゃね?」

 季節が緩やかに、しかし確実に夏に向かっていることを感じさせる水無月のある晴れた日。
 1年で最も陽が長いこの季節、午後5時を迎えようという時間でも、辺りはまだまだ明るい。
 俺とハヤトは、カメラを片手に辺りを見回しながら、やや挙動不審気味にY国立大学のキャンパスを歩いていた。

 学生生活に残された時間が少ないことに気付き、女子大生をファインダーに収めようと考えたわけではない。
 今考えれば、撮っておいて損はなかったのではないかとも思うが、とにかくそうではない。

 目的は、自作同人ゲーム「Calender(仮)」に使う背景写真素材の収集。

 物語の設定上、大学構内の写真は不可欠だ。ネット上にも背景写真素材は公開されているが、それだけではどうにも物足りない。それに何より、どうせなら自分たちが通う大学構内の写真をゲームに使いたいではないか。

 そういう思いは俺たちの間に共通して存在したと思う。

 俺たちが向かったのは、ある校舎の屋上だった。
 屋上というのは、物語の随所で登場する重要なスポットだ。しかも、登場する時間帯も昼・夕・夜と様々であるが故に、とにかく素材はいくらあっても困らない。
 まずは、まだ明るい時間帯の屋上の写真を撮ろうと2人は向かった。

 いつも利用している外階段。その先。屋上へ続く一歩を進める。
 まるで、親や教師に隠れて悪さをする子供のような気分だ。

 やがて辿り着いた屋上は、それまで3年以上通った学内にあって、全く未知の世界だった。

 もちろん、誰もいない。巨大な室外機のようなものが並ぶ他には、何もない。
 見上げた空はほんの少しだけ近くなったようであり、見下ろす学内の風景は見慣れているはずなのに新鮮に映った。

 要するに、気分が高揚した。
 口にすると恥ずかしい言葉だが、このシチュエーションを「青春じゃないか」と、そのときの俺は思った。
 これまた口にすると恥ずかしい言葉だが、同じ目標を持った「仲間」と校舎の屋上に上がる。そもそも「青春」なんて何なのかすらよくわからないのだが、それは何故かものすごい「青春感」だった

 ひとしきり写真を撮ると、その後俺たちは一旦階段を降りた。
 屋上以外にも撮っておきたい場所があったからだが、あらかた欲しい写真を撮り終えると、また同じ屋上に向かう。
 この頃にはコージローも合流し、3人が揃っていた。

 午後7時を過ぎ、いよいよ辺りが闇に包まれ始めると、屋上はまた違った姿を見せる。

 遮るもののない高台に位置する大学、その屋上から見渡せるはるか先の地平で、蒼と朱が交わる。
 交わった蒼と朱は紫に染まり、それが空を覆い尽くすと漆黒の世界が訪れる。

 東を見ればランドマークタワーを中心としたみなとみらい地区の夜景。

 「兵庫が舞台のはずやのに、ランドマークタワー映っとったらおかしいやろ」
 「だから、実在の地名は使わんようにせんと」

 そのとき、その屋上には「ちっぽけだけど、同じ夢を持った3人」が確かにいたんだ。

 あの日あの屋上で過ごした時間は、きっとこの先も忘れないだろう。
 「その程度で青春か」と誰かが笑おうとも、俺にとっては紛れもない青春の1ページだ。俺にとってのこの事実は誰にも否定できるものではないし、そもそも否定させない。

 その後、調子に乗って7月7日に「七夕だし、また屋上行こうぜ」と提案した俺を、コージローが「いや、さすがに今日は誰かおるかも知れんし、やめとこうぜ」とやんわり諭したことは、この話の流れからいって完全に蛇足であるから、あえて書く必要もないだろう。

 つづく

第8話「StrayDogs爆誕」

 第8話「StrayDogs爆誕」

 彼は赤い煉瓦の上を走り、どこからかやってきた別の仲間とじゃれ合っては雑草の上を転がっている。
 俺に見られていることにも気付いていないのだろうか。それとも気付いていて、その上で無視しているのだろうか。

 彼はどこから来たのだろう。首のアクセサリーは、彼に昔は家族がいたことを教えている。しかし、こうして毎日彼を見ていると、それは既に過去の話だということもまたわかる。

 彼はもう「飼われてはいない」。

 高校2年生のとき、俺は裏門の掃除担当だった。男7人(ちなみに、これでクラスの男子全員である)で掃除に向かうと、そこでクリーム色の毛に赤い首輪をした野良犬を見ることがよくあった。俺は、その首輪をつけた野良犬が醸し出すアウトローな雰囲気にどこか惹かれていた。

 彼は、人に飼われることをよしとしなかった。だからこそ、今こうして俺の前にいるのだろう。
 自分を縛る鎖から逃れ、どこへでも走っていける自由を、彼は手に入れているのだ。そう、彼は自由だ!
 いや、野良犬こそ自由の象徴だ!

 何にも縛られていないくせに、どこか社会の被害者ぶっていて、その上、何にも縛られないことによる不安さも知らぬ、若かりしマツモト少年はそんなことを思ったのであった。
 厨二病乙、である。

「StrayDogs!」
 それから数年の時が経ち、大学4年生になったマツモト青年もまた、やはり厨二病であった。

「サークル名はStrayDogs! 俺たちは野良犬。飼い慣らされとるわけじゃないってこと!」
 マツモト青年、会心の命名……のつもりであった。
 しかし、コージローおよびハヤトの反応は至極素っ気ない、そしてまたある意味で予想通りのものであった。

「まぁ、ええんちゃう?」
「……おいおい、そんだけか」

 こうして、我々同人ゲーム製作集団には「StrayDogs」という、ハングリー精神に満ちたハイセンスな名前が付けられたのであった。ワンワン。

 StrayDogsの本当の戦いはこれからだ。

 つづく

第7話「イシガキさん」

 第7話「イシガキさん」

 イシガキさん、彼女は俺と同じゼミに所属する女性だ。160センチを少し超えるくらいのどちらかと言えば長身に、淡い栗色に染めた髪を肩下まで伸ばしている。アニメやマンガが好きで、ガツガツと自己主張するような性格ではなく、ファッションに無頓着ということはないけれど、それほど容姿に派手さはない。だけど、どこか魅力的な女性。俺が彼女を評するならば、そういうことになるだろう。

 俺は彼女と話すときは妙に緊張してしまった。もともと異性と話すことにあまり慣れていないこともあるが、それだけではなかった。
 早い話が、俺は彼女に対して少なからぬ好意を抱いていたわけだ。

 「衣装設定にはこだわりたい、だからこそイシガキさんに協力してほしい」という思いがあったとは言え、彼女を自主製作ゲームのスタッフに誘う、という行為がいかにハードルの高いものであったかは想像に難くないであろう。いや、想像できなくてもよい。実際、そのときの俺にとって、衣装設定を依頼するメールを送信するそのボタンを押すには、相当な勇気を必要とした。

 実際のところ、衣装設定云々ではなく「彼女を何らかの形で関与させたい」という思いが先にあったのではないか、という指摘もあるかと思うが、実際のところそのあたりは定かではない。
 また、彼女に依頼メールを送ったのが夜だったか朝だったか、すぐに返信があったか待たされたか、それらもあやふやでよく覚えていない。

 ただ、返ってきたメールの内容は覚えている。
 「面白そう!やります!」

 メールを確認したとき、自分の口角が上がるのを抑えられなかった。要は、嬉しくてニヤニヤしちゃったわけである、この男は。

 こうして、我々同人ゲーム製作集団にはスタッフが1人加わり、4人となったのであった。とは言え、イシガキさんはあくまで協力スタッフという形であり、メインで活動するのは相変わらず冴えない男連中、俺とハヤトとコージローの3人である。

「いや、しかしマツモトくんがそんなことするとはねぇ」
 ジョナサンのテーブルに座るコージローが少しにやけながら言う。
 「マツモトくん」というのは新キャラではない。俺のことだ。ハヤトとコージローはもともと俺の下の名前を呼び捨てで呼んでいたのだが、何故かいつからかこう呼ぶようになっていた。

「ま、それはいいやんか」
 スケッチブックに落書きのような絵を描きながら、話を逸らす。
「それより、俺らのサークル名考えようぜ。というか、もう考えてあるけど」

 つづく

第6話「ビジュアル」

 第6話「ビジュアル」

 ダイエー横浜西口店脇の道を北へ進み、一の橋を渡ると、右手に改装工事中のビルが見える。はて、一体ハマボウルはいつになったら新装開店するのかね、などと思いながらその道をさらに進む。すると、左手に見えるビルの1階にファミレス・ジョナサンはある。
 そこに、3人の冴えない男たちが集まっていた。
 うむ、他でもない俺たち、俺とハヤトとコージローの素人同人ゲーム製作集団(気取り)、である。

 テーブル上に既に食器類はなく、ドリンクバーのコップ、黄色い表紙に猫のイラストが描かれたデリーター社のF3サイズのスケッチブックだけが存在を主張していた。
 池袋宣言以降、俺たちは冬コミ出展という共通の目標に向け、確実に動き出していた。

「で、茜ってのはどんな娘なんだ。ちょっと特徴書いてみ」
 スケッチブックをハヤトに渡す。
「そうやな、茜は飄々としてるわけや。そんで明るい、そんで……」
 スケッチブックには「ひょうひょうとしている」「明るい」「女の子らしい」「紅茶好き」「チビ」といったフレーズが挙げられていく。

 呼んでもいない梅雨前線が暖簾から顔を覗かせ始めた6月のある夜、そこではキャラデザ打ち合わせが行われていた。
 ノベルゲームをゲームたらしめている要素のひとつにビジュアル面があるのは言うまでもないことだろう。
 シナリオとともに、ビジュアル、中でもキャラクターデザインがその作品の評価に対して占めるウェイトは小さくない。
 そのビジュアルに関して、参考までにいくつかのノベルゲームをプレイした結果、どうしても納得できないことが俺にはあった。
 それは……。

「そういや、ホントにあの人に衣装設定頼んだん?」
 不意にコージローが俺に問う。
「え、あぁ」
 まぁ、そりゃ驚くのも無理はないだろうな。俺だってあのときの自分の決断と行動には少しばかり驚いたさ。
 あのメールの送信ボタンを押すまでにどれだけの逡巡と葛藤があったか。

 だが、俺は自分の納得できないことはそのままにしておけない性質なんでね。つまり、「いつもキャラが同じ服を着てる」ってのは許しがたいんだ。
 だからこそ、女性キャラの多いこの『Calendar(仮)』の衣装設定にイシガキさんを誘ったんだよ。

 つづく

第5話「池袋宣言」

 第5話「池袋宣言」

「ゲームをつくる?」
「そう、この前お前がブログにイラストアップしてんの見て、ビビッと来たんや。お前やったらできる」

 俺が描いたイラストを見て、それでゲームをつくろうと思い立って、そしてシナリオを書き始めたというのか?
 ブログにアップしたのなんて、数日前だぞ?
 その間に、この作品のアイデアを思い付いて形にしたのか?
 いや、この作品のアイデアがいつできていたかはあまり問題ではないな。大事なのは、それを確かに形にして今ここに持ってきているということだ。

 それはハヤトの突拍子もない思い付きだった。しかしそれでいて、彼は至極本気だった。
 そうでなければ、まだ一部とは言えシナリオを書いて、それを読ませるためにわざわざ池袋にまで来るはずもない。

 単なる一過性の思い付きでないのは間違いなさそうだ。
 それならば、こちらも無下にするわけにはいくまい。いや、「誘いを受けて仕方なく」というようなポーズで誤魔化すのはやめよう。
 このとき既に、俺は自ら能動的にこのゲーム製作プロジェクトに参画したいと思っていたのだ。
 だから……。

「やるなら本気でやるぞ。中途半端にやって自己満足で終わるくらいならやらん方がましだ。そうだな、やるならコミケに出展する!」
 俺はハヤトの誘いに乗ると同時に、さらに高い目標をぶち上げた。

 何事も、まず初めに目標を「宣言」すること。それによって、そこに「責任」が生じるし、やる気も起こる。これは『プチクリ』から学んだことだ。

 2008年5月、この「池袋宣言」を以って、俺、ハヤト、コージローの3人を中心とした、悲喜こもごも波乱万丈前途多難の同人ゲーム製作ストーリーは幕を開けたのだった。そう、人知れずに。

「あ、そうや。俺、この作品のヒロインのイラスト、自分で描いてみたんやけど」
 帰り際、駅前でそう言ってハヤトが懐から取り出したA4のコピー用紙については、あえてここでは触れないでおこう。見なかったことにしておいた方がいいことが往々にしてこの世にはある。

 こうして、俺たちは1つの目標を共有するチームとなったのである。これからがやっと本編の始まりである。みんな、ついてこい。

 つづく

番外編「今の俺は」

 「同人ゲームができるまで」の連載もまだ序盤も序盤で、いきなり完成したものを見てもらうことになるのもおかしな話だけど、この動画見たら制作当時の自分に胸倉をつかまれたような気分になる……。

 まだ1年ちょっと前の話だけど……。



 創造性の欠片もない今の仕事で、本当に満足か?

 10年前の自分に胸張って会えるか?

 今のお前は何か目標持って生きてんのか?

 しかし考えてみりゃ、大学時代から同じようなことを思い続けて今日に至るわけだよな……。

第4話「着火」

 第4話「着火」

 何故か変人ばかりが一堂に会したミスタードーナツ2階で、俺とコージローによる「それ」の公開読書が始まった。
 「それ」とはつまり、ハヤトが書いたという小説のことである。彼がおもむろにかばんから取り出したA4コピー用紙の束は想像以上に厚く、50枚近くありそうだった。
 印刷されていたのは1部のみだったため、俺が1ページ読んだらそれをコージローに渡すというローテーションで読み進めることにした。

 タイトルは『Calendar』。時空跳躍要素を取り入れたSFものであった。まだ完成したものではなく、第1章部分のみであるという。
 正直に言おう。
 これまで散々煙に巻いて、何とかハヤトからの逃げ切りを図っていた俺であるが、この作品を初めて読んだとき持った感想は「面白い」である。特に、高校生の主人公と、それより数年後の社会人になった主人公の話が節ごとに交互に進行していき、最終的にそれらがある1日に収束するという展開は、悔しいながらもうまいと思った。

 だが問題もあった。
「このキャラの名前は何なんだよ」
 センスがあるとかないとかいう話ではない。皆どこかで聞いたことのあるような名前だと思ったら、どの人物も阪神タイガースの選手の名前を拝借しているのだ。
 何と言っても主人公の名前が「赤星進次郎」である。韋駄天レッドスターもびっくりに違いない。

 しかし、それよりもさらに大きな問題があった。
「うん、それで何でいきなりこんなん書いたん? これからどうするわけよ」
 意外に面白い作品を書けたことはわかった、それで読ませたいと思った、それはいい。
 それで、これからどうしたいのか。
 ハヤトは言う。
「ゲーム作ろうぜ、ゲーム」

 皆さんはノベルゲームというものをご存知だろうか。「『ひぐらし』みたいなやつね」とお分かりの方には説明不要だろうが、ご存じない方のために説明しておくと、ノベルゲームというのは「画面に表示される文章(および副次情報としてのイラスト)を読み進めていく(場合によっては選択肢を選ぶ)、読書に近いゲーム」のことである。
 彼は、その小説(いや、もうシナリオと呼ぶべきだな)に俺のイラストを足してノベルゲームをつくろうと言い出したのだ。
 聞けば、彼は数日前に俺が描いてブログにアップしたイラストを見て、これならイケると思ったらしい。
 あれが今の状況の火種になっていたとは、まさか思いもしていなかった俺は呆れると同時に、沸々と湧き上がる創作意欲を抑えられなくなりつつあった。

 つづく

第3話「観念」

 第3話「観念」

 爽やかな初夏の陽射しがやや傾き始めた池袋。駅東口からサンシャイン60通りに入り、東急ハンズ手前の小道を南へ少し歩いた先にあるビルの5Fで営業する猫喫茶「299」。
 その日、ここには看板猫のどんぐりをはじめとした可愛い猫たち、そして見るからに冴えない男たちがいた。
 俺と、コージローと、そしてまさに「招かれざる客」のハヤトである。

「ホンマに来たんや」
「お前、ホントに来たのかよ……」
 電話を受けた際、確かにここの場所は教えたが、本当に来るとは。予想の斜め上を行く展開に俺とコージローは苦笑を禁じ得なかった。

「いやまぁとりあえず読んでくれって」
 そして相変わらずこの男は「作品」を読んでほしいらしい。
 しかし、予定滞在時間ももう過ぎようとしている。ここは一旦店を出よう。ひとまず、その方向で話がつき、俺たちは猫喫茶を出た。

 実際のところ、そのときは何となく話をうやむやにして、とっとと横浜方面行きの京浜東北線に乗って逃走を図る予定であった。
 しかし、それは無駄だとすぐに悟る。
 池袋までやってきた男の執念は半端なものではない。京浜東北線に乗って横浜まで逃走したところで、その後バスに乗って自宅まで乗り込んでこない保証はない。いや、乗り込んでくる。間違いない。
 就職活動に使う自己PR用の写真を撮ると言って、油性マジックを片手に押しかけてきたときもそうだったではないか。あのときは、胸に「魂」という文字を書いて(しかも自分で書いたために左右反転になった)、それを写真に収めてやるまで帰らなかったではないか。
 ……観念して読む他あるまい。

 さすがに外で読むわけにもいかないため、俺たちは猫喫茶から駅方向に少し歩いた先にあるミスタードーナツに入った。
 とりあえず、それぞれ適当なドーナツをいくつか買い、2階の飲食スペースへ向かう。
 平日の夕方、それなりに店内は混んでおり、かろうじて空いていた4人席に我ら3人は陣を構えた。俺から見て右隣にはロックバンドでもやっていそうな若くて軽そうな4人組が、何故かUNOを楽しんでいる。そして、左隣にはカップルと思われる男女が座っている。しかしこの2人、全く会話がない。ただの一言もない。
 ドーナツ屋の店内でUNOに興じるロックバンド風4人組と、会話のないカップル風の男女。その間に座る、謎の原稿を抱えた華のない3人組。

 何だ、これは。ドッキリか。

 つづく

第2話「猫喫茶に集まる3人」

  第2話「猫喫茶に集まる3人」

「いい作品て何の話や。そもそも、俺はこれから出掛けるから無理だぞ」
 どうやらハヤトは何かしら「読む」ものを書いたらしい。だが、俺にとってはそんなことはどうでもいい。それよりも猫である。寝子である。にゃんこである。
 というのも、その日、俺はこれまた大学の悪友もとい数少ない友人の1人であるコージローとともに、池袋の猫喫茶「299」に行く予定だったのだ。
 ちなみに、このコージローという男がどんな男か知りたい方は、中日ドラゴンズに所属する河原純一を想像してもらうとよい。広島県産の河原純一、それがすべてだ。

「ああ、じゃあさっき言ったみたいに郵便受けにでも入れといてくれ」
 若干の引っかかりを覚えつつも、ハヤトを軽くいなした俺は池袋に向かう。

 その日は、陽の当たらない俺たちにはもったいないくらいの爽やかな初夏の陽気であった。きっとこの陽気が、そもそもスパークリングなハヤトの頭をさらにハジケさせてしまったのだろう。やれやれ、罪な太陽だぜ。

「ソフトバンク、新しい選手の出てきとるやん」
「ああ、長谷川ね。長打力はあるんやけど、確実性がないんだよな」
 猫喫茶「299」に着いた俺たちは、チンチラの看板猫・どんぐりと戯れながら、野球談義をしていた。ちなみに、このどんぐりという猫、とにかくもふもふで、とにかくもふりっくもふらーなのである。何を言っているのかわけがわからないという方は力を抜いてほしい。言葉の意味など考えなくてよいのだ。その言葉から想像力を働かせてほしい。
 さて、ここでこのどんぐりの可愛らしさをじっくり語りたいところだが、本物語とは一切関係がないため泣く泣く割愛しよう。

 その日の滞在時間はだいぶ長かったように思う。「じゃあそろそろ帰るか」、そう思い始めた、ほどよく陽が暮れ始めた午後5時頃のことである。
 またしても俺の携帯電話が鳴る。正確に言えば、振動を始める。その振動はなかなか止まらない。メールではない。
 まさかと思った。
 そして、俺の予感は大概当たる。

「池袋まで来たで! どこ行けばいいんや」
 「そもそも呼んでない」というツッコミはこの神戸出身の関西人には通用しない。
 そう、ハヤトである。

 彼は「作品」を片手に、横浜から池袋まで単身で乗り込んできたのである。
 こいつ、こんなにアクティブだったか?

 つづく

第1話「始まりはいつも突然に」

  第1話「始まりはいつも突然に」

 この世界を支配する因果律という法則。物事にはすべて理由・原因がある。だとすれば、あの1年半に渡る騒々しくも愛すべき日々を生んだのは、あのときの俺の左クリックだったのではないか。

 就職活動というものに一応の区切りをつけ、無駄に要領よく単位を積み重ねていた俺が、ほとんど講義も予定もない日々を過ごしていた2008年5月のことである。

 別に、その先に大した目標があったわけではない。何かを成そうと考えたわけでもない。
 ただ、俺は「退屈」だったのだ。
 気付いたときには、俺は「それ」の購入確定ボタンを左クリックしていた。
 今振り返れば、まさにこれが、俺とそしてあいつらの遅すぎる(そしてあまりにも陽の当たらない)青春物語の号砲を打ち鳴らすトリガーだったのだ。

 翌日、「何を選択基準にすればそのような不便極まりない立地を選べるのか」と100回は問い質したくなるようなワンルームマンション、つまりは俺の部屋にAmazonから商品が届く。
 届いたのは、Wacom製のペンタブレット「Bamboo Art Master CTE-650/S1」である。ペンタブレット初心者にはちょうど良いサイズ・価格帯ということで、なかなか評判の良い商品だ。
 そう、退屈だった俺は絵を描きたいと思った。絵を描いて、ブログに公開して内輪で楽しみたいと、ただその衝動だけが俺を動かしていた。

 コピー用紙に描いた線画をスキャナで取り込み、そこにPhotoshopで色を付けていくという手法で処女作を描き上げたのは、さらにその翌日のことである。今見れば酷い出来であるが、とにかくそのときの俺にはその制作工程すべてが新鮮で、そして楽しかった。描き上げた作品をブログ上に公開して悦に入ったことは言うまでもない。
 後から知ったことであるが、このとき俺が公開したイラストからヤルキダネとでも言うべき衝動の種が、ADSL回線を通じてある男に伝播し、そして芽吹いていたのである。

 話はその数日後に飛ぶ。
 正午過ぎ、出掛ける準備をしていた俺の携帯電話が鳴る。発信者の名前はハヤト。大学で同じ学部に所属する同期の男であり、俺の悪友もとい数少ない友人の1人でもある。
 人の話を聞かない一方的な男はこうまくし立てた。
「いい作品ができた! とにかく読んでくれ! 出掛ける? じゃあ郵便受け入れとく!」
 それは、長く、そして俺たちにとって歴史的な意味を持つ半日の始まりを告げる声だった。

 つづく

予告

 皆様、お久しぶりである。「おいおい、誰もこんな過疎ブログ見てないんだろ」とか「つーか、お前サボりすぎだろ」とかいった瑣末なツッコミは差し控えていただきたい。

 本エントリは、「同人ゲームができるまで」連載を予告するものである。

 ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、私は2008年5月頃から2009年12月まで同人ゲーム製作を行っていた。それはもう山あり富士山ありの日々で大変だったわけだが、その製作過程をほぼノンフィクションの小説形式で連載していきたいと考えている。

 なぜこのようなことをやろうと考えたのか。

 あの日々の記憶は記録として確実に残しておきたい、残しておくべきだと思ったからだ。

 最終的にゲームが完成してからもう1年以上経ち、製作開始の時期から考えるともう2年以上が経過しており、徐々に製作初期の頃の記憶が薄れてきていることは否めない。まだ記憶が確かなうちに文章という形で記録に残したい、そういう衝動が湧き上がってきたのである。

 最終的に連載回数が何回になるか、1回あたりの文章量がどのくらいになるかは未定である。回数はともかく、文章量はある程度目安を決めておいた方がいいだろうが、そこはまた後ほど考えることとする。

 また、更新日もとりあえずは設定せず、不定期連載としたい。

 のんびり細々とじっくり形にしていければ。

 自分の記録として残すのが目的とは言え、やはり書き物というのは読者があってこそである。「別に読んでもらわなくてもいいもん」などと虚勢を張るつもりはない。もし、そんなことを思っているのならば、ブログという形で公開する必要などないからだ。

 読者の皆様方には、よろしくお付き合いいただければ幸いである。

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