Y's DIARY

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第3話「観念」

 第3話「観念」

 爽やかな初夏の陽射しがやや傾き始めた池袋。駅東口からサンシャイン60通りに入り、東急ハンズ手前の小道を南へ少し歩いた先にあるビルの5Fで営業する猫喫茶「299」。
 その日、ここには看板猫のどんぐりをはじめとした可愛い猫たち、そして見るからに冴えない男たちがいた。
 俺と、コージローと、そしてまさに「招かれざる客」のハヤトである。

「ホンマに来たんや」
「お前、ホントに来たのかよ……」
 電話を受けた際、確かにここの場所は教えたが、本当に来るとは。予想の斜め上を行く展開に俺とコージローは苦笑を禁じ得なかった。

「いやまぁとりあえず読んでくれって」
 そして相変わらずこの男は「作品」を読んでほしいらしい。
 しかし、予定滞在時間ももう過ぎようとしている。ここは一旦店を出よう。ひとまず、その方向で話がつき、俺たちは猫喫茶を出た。

 実際のところ、そのときは何となく話をうやむやにして、とっとと横浜方面行きの京浜東北線に乗って逃走を図る予定であった。
 しかし、それは無駄だとすぐに悟る。
 池袋までやってきた男の執念は半端なものではない。京浜東北線に乗って横浜まで逃走したところで、その後バスに乗って自宅まで乗り込んでこない保証はない。いや、乗り込んでくる。間違いない。
 就職活動に使う自己PR用の写真を撮ると言って、油性マジックを片手に押しかけてきたときもそうだったではないか。あのときは、胸に「魂」という文字を書いて(しかも自分で書いたために左右反転になった)、それを写真に収めてやるまで帰らなかったではないか。
 ……観念して読む他あるまい。

 さすがに外で読むわけにもいかないため、俺たちは猫喫茶から駅方向に少し歩いた先にあるミスタードーナツに入った。
 とりあえず、それぞれ適当なドーナツをいくつか買い、2階の飲食スペースへ向かう。
 平日の夕方、それなりに店内は混んでおり、かろうじて空いていた4人席に我ら3人は陣を構えた。俺から見て右隣にはロックバンドでもやっていそうな若くて軽そうな4人組が、何故かUNOを楽しんでいる。そして、左隣にはカップルと思われる男女が座っている。しかしこの2人、全く会話がない。ただの一言もない。
 ドーナツ屋の店内でUNOに興じるロックバンド風4人組と、会話のないカップル風の男女。その間に座る、謎の原稿を抱えた華のない3人組。

 何だ、これは。ドッキリか。

 つづく

第2話「猫喫茶に集まる3人」

  第2話「猫喫茶に集まる3人」

「いい作品て何の話や。そもそも、俺はこれから出掛けるから無理だぞ」
 どうやらハヤトは何かしら「読む」ものを書いたらしい。だが、俺にとってはそんなことはどうでもいい。それよりも猫である。寝子である。にゃんこである。
 というのも、その日、俺はこれまた大学の悪友もとい数少ない友人の1人であるコージローとともに、池袋の猫喫茶「299」に行く予定だったのだ。
 ちなみに、このコージローという男がどんな男か知りたい方は、中日ドラゴンズに所属する河原純一を想像してもらうとよい。広島県産の河原純一、それがすべてだ。

「ああ、じゃあさっき言ったみたいに郵便受けにでも入れといてくれ」
 若干の引っかかりを覚えつつも、ハヤトを軽くいなした俺は池袋に向かう。

 その日は、陽の当たらない俺たちにはもったいないくらいの爽やかな初夏の陽気であった。きっとこの陽気が、そもそもスパークリングなハヤトの頭をさらにハジケさせてしまったのだろう。やれやれ、罪な太陽だぜ。

「ソフトバンク、新しい選手の出てきとるやん」
「ああ、長谷川ね。長打力はあるんやけど、確実性がないんだよな」
 猫喫茶「299」に着いた俺たちは、チンチラの看板猫・どんぐりと戯れながら、野球談義をしていた。ちなみに、このどんぐりという猫、とにかくもふもふで、とにかくもふりっくもふらーなのである。何を言っているのかわけがわからないという方は力を抜いてほしい。言葉の意味など考えなくてよいのだ。その言葉から想像力を働かせてほしい。
 さて、ここでこのどんぐりの可愛らしさをじっくり語りたいところだが、本物語とは一切関係がないため泣く泣く割愛しよう。

 その日の滞在時間はだいぶ長かったように思う。「じゃあそろそろ帰るか」、そう思い始めた、ほどよく陽が暮れ始めた午後5時頃のことである。
 またしても俺の携帯電話が鳴る。正確に言えば、振動を始める。その振動はなかなか止まらない。メールではない。
 まさかと思った。
 そして、俺の予感は大概当たる。

「池袋まで来たで! どこ行けばいいんや」
 「そもそも呼んでない」というツッコミはこの神戸出身の関西人には通用しない。
 そう、ハヤトである。

 彼は「作品」を片手に、横浜から池袋まで単身で乗り込んできたのである。
 こいつ、こんなにアクティブだったか?

 つづく

第1話「始まりはいつも突然に」

  第1話「始まりはいつも突然に」

 この世界を支配する因果律という法則。物事にはすべて理由・原因がある。だとすれば、あの1年半に渡る騒々しくも愛すべき日々を生んだのは、あのときの俺の左クリックだったのではないか。

 就職活動というものに一応の区切りをつけ、無駄に要領よく単位を積み重ねていた俺が、ほとんど講義も予定もない日々を過ごしていた2008年5月のことである。

 別に、その先に大した目標があったわけではない。何かを成そうと考えたわけでもない。
 ただ、俺は「退屈」だったのだ。
 気付いたときには、俺は「それ」の購入確定ボタンを左クリックしていた。
 今振り返れば、まさにこれが、俺とそしてあいつらの遅すぎる(そしてあまりにも陽の当たらない)青春物語の号砲を打ち鳴らすトリガーだったのだ。

 翌日、「何を選択基準にすればそのような不便極まりない立地を選べるのか」と100回は問い質したくなるようなワンルームマンション、つまりは俺の部屋にAmazonから商品が届く。
 届いたのは、Wacom製のペンタブレット「Bamboo Art Master CTE-650/S1」である。ペンタブレット初心者にはちょうど良いサイズ・価格帯ということで、なかなか評判の良い商品だ。
 そう、退屈だった俺は絵を描きたいと思った。絵を描いて、ブログに公開して内輪で楽しみたいと、ただその衝動だけが俺を動かしていた。

 コピー用紙に描いた線画をスキャナで取り込み、そこにPhotoshopで色を付けていくという手法で処女作を描き上げたのは、さらにその翌日のことである。今見れば酷い出来であるが、とにかくそのときの俺にはその制作工程すべてが新鮮で、そして楽しかった。描き上げた作品をブログ上に公開して悦に入ったことは言うまでもない。
 後から知ったことであるが、このとき俺が公開したイラストからヤルキダネとでも言うべき衝動の種が、ADSL回線を通じてある男に伝播し、そして芽吹いていたのである。

 話はその数日後に飛ぶ。
 正午過ぎ、出掛ける準備をしていた俺の携帯電話が鳴る。発信者の名前はハヤト。大学で同じ学部に所属する同期の男であり、俺の悪友もとい数少ない友人の1人でもある。
 人の話を聞かない一方的な男はこうまくし立てた。
「いい作品ができた! とにかく読んでくれ! 出掛ける? じゃあ郵便受け入れとく!」
 それは、長く、そして俺たちにとって歴史的な意味を持つ半日の始まりを告げる声だった。

 つづく

予告

 皆様、お久しぶりである。「おいおい、誰もこんな過疎ブログ見てないんだろ」とか「つーか、お前サボりすぎだろ」とかいった瑣末なツッコミは差し控えていただきたい。

 本エントリは、「同人ゲームができるまで」連載を予告するものである。

 ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、私は2008年5月頃から2009年12月まで同人ゲーム製作を行っていた。それはもう山あり富士山ありの日々で大変だったわけだが、その製作過程をほぼノンフィクションの小説形式で連載していきたいと考えている。

 なぜこのようなことをやろうと考えたのか。

 あの日々の記憶は記録として確実に残しておきたい、残しておくべきだと思ったからだ。

 最終的にゲームが完成してからもう1年以上経ち、製作開始の時期から考えるともう2年以上が経過しており、徐々に製作初期の頃の記憶が薄れてきていることは否めない。まだ記憶が確かなうちに文章という形で記録に残したい、そういう衝動が湧き上がってきたのである。

 最終的に連載回数が何回になるか、1回あたりの文章量がどのくらいになるかは未定である。回数はともかく、文章量はある程度目安を決めておいた方がいいだろうが、そこはまた後ほど考えることとする。

 また、更新日もとりあえずは設定せず、不定期連載としたい。

 のんびり細々とじっくり形にしていければ。

 自分の記録として残すのが目的とは言え、やはり書き物というのは読者があってこそである。「別に読んでもらわなくてもいいもん」などと虚勢を張るつもりはない。もし、そんなことを思っているのならば、ブログという形で公開する必要などないからだ。

 読者の皆様方には、よろしくお付き合いいただければ幸いである。

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30代男。
三度の飯より鷹命。

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