Y's DIARY

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第9話「青い春、夏の屋上にて」

 第9話「青い春、屋上にて」

 「これ、青春じゃね?」

 季節が緩やかに、しかし確実に夏に向かっていることを感じさせる水無月のある晴れた日。
 1年で最も陽が長いこの季節、午後5時を迎えようという時間でも、辺りはまだまだ明るい。
 俺とハヤトは、カメラを片手に辺りを見回しながら、やや挙動不審気味にY国立大学のキャンパスを歩いていた。

 学生生活に残された時間が少ないことに気付き、女子大生をファインダーに収めようと考えたわけではない。
 今考えれば、撮っておいて損はなかったのではないかとも思うが、とにかくそうではない。

 目的は、自作同人ゲーム「Calender(仮)」に使う背景写真素材の収集。

 物語の設定上、大学構内の写真は不可欠だ。ネット上にも背景写真素材は公開されているが、それだけではどうにも物足りない。それに何より、どうせなら自分たちが通う大学構内の写真をゲームに使いたいではないか。

 そういう思いは俺たちの間に共通して存在したと思う。

 俺たちが向かったのは、ある校舎の屋上だった。
 屋上というのは、物語の随所で登場する重要なスポットだ。しかも、登場する時間帯も昼・夕・夜と様々であるが故に、とにかく素材はいくらあっても困らない。
 まずは、まだ明るい時間帯の屋上の写真を撮ろうと2人は向かった。

 いつも利用している外階段。その先。屋上へ続く一歩を進める。
 まるで、親や教師に隠れて悪さをする子供のような気分だ。

 やがて辿り着いた屋上は、それまで3年以上通った学内にあって、全く未知の世界だった。

 もちろん、誰もいない。巨大な室外機のようなものが並ぶ他には、何もない。
 見上げた空はほんの少しだけ近くなったようであり、見下ろす学内の風景は見慣れているはずなのに新鮮に映った。

 要するに、気分が高揚した。
 口にすると恥ずかしい言葉だが、このシチュエーションを「青春じゃないか」と、そのときの俺は思った。
 これまた口にすると恥ずかしい言葉だが、同じ目標を持った「仲間」と校舎の屋上に上がる。そもそも「青春」なんて何なのかすらよくわからないのだが、それは何故かものすごい「青春感」だった

 ひとしきり写真を撮ると、その後俺たちは一旦階段を降りた。
 屋上以外にも撮っておきたい場所があったからだが、あらかた欲しい写真を撮り終えると、また同じ屋上に向かう。
 この頃にはコージローも合流し、3人が揃っていた。

 午後7時を過ぎ、いよいよ辺りが闇に包まれ始めると、屋上はまた違った姿を見せる。

 遮るもののない高台に位置する大学、その屋上から見渡せるはるか先の地平で、蒼と朱が交わる。
 交わった蒼と朱は紫に染まり、それが空を覆い尽くすと漆黒の世界が訪れる。

 東を見ればランドマークタワーを中心としたみなとみらい地区の夜景。

 「兵庫が舞台のはずやのに、ランドマークタワー映っとったらおかしいやろ」
 「だから、実在の地名は使わんようにせんと」

 そのとき、その屋上には「ちっぽけだけど、同じ夢を持った3人」が確かにいたんだ。

 あの日あの屋上で過ごした時間は、きっとこの先も忘れないだろう。
 「その程度で青春か」と誰かが笑おうとも、俺にとっては紛れもない青春の1ページだ。俺にとってのこの事実は誰にも否定できるものではないし、そもそも否定させない。

 その後、調子に乗って7月7日に「七夕だし、また屋上行こうぜ」と提案した俺を、コージローが「いや、さすがに今日は誰かおるかも知れんし、やめとこうぜ」とやんわり諭したことは、この話の流れからいって完全に蛇足であるから、あえて書く必要もないだろう。

 つづく



 せっかくなんで、実際にそのとき撮った写真を何枚かアップしときますね。

 ちなみに僕はこれらの写真を久しぶりに見て、何だか胸が詰まる思いがしました。

屋上01

屋上02

屋上03

屋上04

屋上05
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Comments
 
あかん、本当に少し泣きそうになった。
あの頃にはもう戻れないことは分かってる。
それでも、あの時あの場所で三人で見た景色は紛れもなく、忘れる事の出来ない青春だった。
あれから何年も経ったけど、こんな辛気臭い毎日を送っているけれど、あの青春が胸にある限り、俺はまだまだやれる気がする。
まあなんだ、つまりあれだ、ありがとう。
Re:第9話「青い春、夏の屋上にて」 
バックアップのHDDから写真を掘り返してきて、状況を思い出しながら今回の話は書いたわけだが、
当時のことを思い出すと、やはり何というかこう、胸が詰まりますな。

当時の俺らだって、未来が明るいものと信じて疑わないような、
そんな前向きな人間じゃなかったけれど、
振り返ってみれば「充実したいい日々だった」と思える。

それはきっと、何だかんだ言いながら、あの頃は「毎日楽しんで生きていた」からだろう。

「未来の自分」に笑顔で会える「過去の自分」であるためには、
「今の自分」を大切にしなきゃいけないってことなんだろうな。

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30代男。
三度の飯より鷹命。

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