Y's DIARY

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スマホを巡る出来事

日常
 人生何が起こるかわからない、今日はそんなお話。


 6月24日(土)

 この日は会社のソフトボール部の活動日であった。
 昼から3時間ほど会社のグラウンドでソフトボールをやった後、新入社員の歓迎会も兼ねて飲み会へ。

 炎天下で運動した後のビールは美味い。マジで美味い。
 おかげで完全に飲み過ぎてしまった。一体ビールと焼酎を何杯飲んだか覚えていない。

 3軒目の店を出たときには、もう終電はない時間。
 そこからの記憶がほとんどない。

 断片的に覚えているのは以下だ。

 駅のバス停の椅子に座っていたこと。
 スマホがないことに気付いて、なぜか駅の周辺をぐるぐると歩いたこと。
 用もないのに24時間営業のスーパーに入って何もせずに出たこと。
 コンビニでトイレを借りたこと。
 始発までどこかの店先で座り込んで寝たこと。
 遠回りな経路で乗換をして家に帰ったこと。

 6月25日(日)

 家に着いて目が覚めたのは午前9時。

 不思議なくらい二日酔いはなかった。ただ、冷静になって改めて「スマホ紛失」という事実に血の気が引く。

 何をしていいかわからず、とりあえず前日最初に飲んだ店の電話番号を調べて、電話をかけようと思い立つ。
 しかし、電話をかける手段がない。

 近所の公衆電話を調べて、電話をかけに出掛ける。
 公衆電話を使うのなんて何年ぶりだろうか。

 店に電話しても誰も出ない。当然だ。営業時間外である。
 次に、自分のスマホの電話番号にかけてみる。
 呼び出し音は鳴るが誰も出ない。すぐに伝言メモ機能に切り替わってしまう。5秒しか着信音を鳴らさない設定にしていた自分を恨む。

 だが、これで少なくともまだ電源が入っていて、連絡のとりようがあることがわかった。

 一旦、自宅に戻り、次にとるべき行動を考える。

 「こんなとき、iPhoneなら遠隔で位置を特定できるのに……」と思って調べてみたところ、何とAndroidでも同じような機能が使えるではないか! ※ちなみにU-sukeのスマホはXperia。

 早速調べてみると、現在位置が特定できた。
 前日に飲んだ駅ではなく、そこから数Km離れた場所にあるようだ。
 さらに、タイムラインを見てみると、どうも午前2時過ぎに駅周辺で誰かが拾ってそこから車で移動したことがわかった。

 少し希望が見えてきた。

 GPSが示している場所周辺にあるデニーズの番号を調べ、次はそこに電話をかけてみる。
 スマホの落とし物が届いていないか確認するも、ないとのこと。

 次は、前日に一緒に飲んでいた後輩に電話する。もしかして後輩が拾ってタクシーで帰ったのではないか、と思ったからだ。
 公衆電話からの電話に果たして出てくれるだろうか、と不安だったが、後輩はすぐに出た。
 しかし、これまた外れ。スマホは拾っていないとのことだった。「何かできることあれば手伝いますよ」という言葉を受け、一旦自宅へ戻る。

 再度端末の位置を確認するが動きはない。
 場所を確認するだけではなく、遠隔で画面ロックをかけてそこにメッセージを表示させる機能もあることに気付き、「gmailアドレス宛に連絡を欲しい」旨のメッセージを送ってみる。
 しばらく待ってみるがメールが来る気配はない。

 もしかしたら、道ばたに落とされているのかも知れない。GPSが示す場所にとりあえず行ってみようと思い立つ。

 しかし、端末はWi-Fi版iPadがあるものの、通信手段が何もない。
 そこで、また後輩に電話。後輩についてきてもらって、テザリングで通信手段を得ようという魂胆だ。

 実際、相当迷惑だったろうが、後輩は快諾してくれた。

 午後1時。
 GPSが示す位置の最寄り駅で待ち合わせて、現場へ向かう。
 周辺にはデニーズとその駐車場、そしてラウンドワン。

 後輩はポータブルWi-Fiを持ってきてくれており、それを使っていいですよと貸してくれた。

 ファミレスに入って事情を話し、それらしきスマホがないか探してみるも見つからない。
 駐車場に止まっている車に置いてあるのかと周辺を探してみるも見つからない。

 何度も場所を確認するが、移動している気配はない。すぐ近くにあるはずなのに見つからないもどかしさ。

 二日酔いをおして付き合ってくれている後輩の体調も限界に来ていた。
 借りたポータブルWi-Fiを後で返しに行くことを約束し、後輩を帰す。

 その後、ひとりで1時間ほど周辺を探すも、どうしても見つからない。
 そうこうしているうちに、ポータブルWi-Fiの電池が切れ、通信手段を失った。

 一旦家に帰って仕切り直すことにする。

 しかし、家に帰ったところで状況は何も変わらない。ポータブルWi-FiとiPadを充電しつつ呆然とする。
 もう諦めて警察に遺失物届けを出して、docomoのケータイ補償サービスの手続きを進めるか、そう思いつつもやはりまだ諦めがつかない。

 もう1回だけ行ってみて、見つからなかったら警察署に行って届けを出そう。

 午後5時過ぎ、再度現場へ。これまで全く動きはなし。
 昼に行っていないところが1箇所あった。

 ラウンドワンだ。

 もしかしたら、ここで保管されているかもしれない。なぜだか強い直感があった。
 もうここでダメなら他にはない。
 最後の希望を持って店内へ。

 受付の店員さんにスマホの落とし物の有無を確認する。

 しかし、奇跡は、起きなかった。
 届いてないですね、という無情の言葉を聞くと、失意のうちに店を出る。

 さすがに精神的に堪えるものがあり、警察署に届けを出しに行く前に店先のブロック塀に少し腰掛けて休んだ。

 そのとき、iPadにgmailの着信通知が届いていることに気付いた。

 確認してみると、何とスマホを拾ったという人からのメールである!
 ロック画面に表示させたメールアドレス宛に連絡をくれたのだ。

 このメールを見た瞬間の安堵感たるや表現のしようがないほどであった。
 もうダメだと思った直後に救いの手が差し伸べられたのだ。

 GPSでスマホの位置を確認すると、移動している。
 これまで連絡がなかったのは、恐らく車の中に入れておいたままで気付かなかったとかそんなところだろう。
 そして、車に戻って移動する際にメッセージに気付いて連絡をくれたのだろう。

 その後、メールでやりとりを行い、拾ってくれた方の家の最寄り駅で待ち合わせることになった。
 移動する途中、拾ってくれたお礼にと思い、Amazonギフトカードを購入する。

 予定より少し早めの時間に待ち合わせの場所に到着し、拾ってくれた方の到着を待つ。
 メールの差出人名から男性であることはわかっていたし、その文章から若い人だと予想していた。

 事前にこちらの服装を伝えていたため、ふと男性から声をかけられる。

 現れたのは、真っ黒に日焼けした肌に金髪に近い茶髪を肩口まで伸ばし、そして顎髭を蓄えた、いかにもチャラそうな男性(イケメン)だった。正直、最初は少しビビった。これまでの人生では関わることのなかった(関わろうとしなかった)タイプの見た目だったからだ。

 「U-sukeさんっすか? あ、これです」

 そう言って彼はスマホを差し出した。それはまさに前日まで肌身離さず持ち歩いていた自分のスマホである。自分の手元に戻ってきたのだという感動で高揚する。
 その後、どこに落ちていたのかなど、他愛のない会話を少しした後、お礼に買ったギフトカードを手渡そうとすると彼は言った。

 「いや、そんなのホントいいっすよ。そんなんいいんで、LINE交換しません? そんで今度飯でもおごってくださいよ。それでチャラにしましょ。最近読んだ本に書いてあったんすよ、駅でこんなにたくさんの人が行き交ってる中、どんな形であれ知り合うって、何か不思議な縁があるんですよ。お金渡してそれで終わりってのも何かアレじゃないですか」

 虚を突かれた気分だった。
 確かに、お礼を渡してそれで終わりだと、そういう風に考えていた自分がいた。

 LINEの連絡先を交換すると、それじゃ、と言って彼は帰っていった。

 その後すぐにLINEで連絡があり、近いうちにご飯食べに行きましょうという話をした。

 帰りに後輩の住んでいる街の最寄り駅に寄ってポータブルWi-Fiを返すと同時に、いろいろと迷惑をかけたお詫びにと迷惑料を渡す。ついでにマックに行って、スマホが見つかるまでの顛末を話す。

 貴重な休日、しかも二日酔いで辛いところをスマホ捜索に協力してくれた後輩。
 そして、スマホを拾って連絡をくれた若者。

 泥酔してスマホを紛失するという己の愚かさと引き換えに、人の優しさを知った1日であった。

 しかし、スマホを巡る出来事はこれでは終わらない。
 まだ続きがあるのだ。

 6月29日(木)

 この日、スマホを拾ってくれた男性とご飯を食べに行くことにしていた。

 スマホを拾ってくれた恩人とは言え、いざ行ってみたら相手側のチャラそうな友人に囲まれてたかられるんじゃないか、という不安が全くないわけではなかった。

 しかし、そんなことはなく、彼はひとりで現れ、「じゃ行きましょ」と言った。

 駅近くの小さな居酒屋に入って話すと、これまで少なからず抱いていた不安は一蹴された。
 歳は自分より2歳下で、見た目こそチャラいが、ものすごくしっかりした考え方を持っている青年だった。

 「U-sukeさん、今日ここに来るとき、どうやって来ました? 何時に着かなきゃいけないから、そのために何時に出て電車に乗って、とか考えて来ましたよね? 人生でも同じだって思うんですよ。目標や目的があれば、そこから逆算していつまでに何をしなきゃいけない。だから、じゃあ今何をしないといけない、って考えになると思うんです」
 「俺、昔いろいろあったんですけど、それを通じて『自分は人に支えられて生きてる』ってことを痛感したんですよね。だから、人の繋がりってすげー大事だと思うんです。とか、こんな話すると宗教くさいって言われるんですけど、自分、無宗教ですからね(笑)」

 不安は杞憂だったのだ。やはり、スマホを拾って連絡をくれただけあって、人を思うしっかりした青年だった。
 ちなみに、彼、いやリュウちゃんと呼ぼう、リュウちゃんは札幌出身の元野球部ということもあり、年齢の上下関係はきっちりしないとダメだという考えで、常にこちらに対して敬語で話してくれた。

 お酒も進み、思った以上に盛り上がったところでお開きにする。

 「おごってもらってチャラにするなんて言いましたけど、僕はおごってもらう気はさらさらないんでちゃんと払いますよ」

 リュウちゃんはそう言ったが、さすがにここは払わせてくれと会計を済ませて外へ。
 次は焼肉に行こう、そう次の約束をして帰りの電車に乗る。

 人生とは本当に不思議なものだと思った。
 もしスマホを落とさなければ、生まれることのなかった出会いだ。
 これはガッキーと出会うのもあながち夢ではない、いやむしろ近いうちに出会えるのではないか、などと思いながら帰った。

 しかししかし、スマホを巡る出来事はまだまだ終わらない。
 さらに続きがある。

 6月30日(金)

 リュウちゃんと飲んだ後、家に着いたときには日付が変わっていた。

 いい気分で風呂に入る。災い転じて福と成す、まさにそんな1週間だった。そんなことを思いながら、湯船に浸かり、スマホをいじりながら野球関連のニュースを見ていた。

 ……

 ハッと気付くと、風呂で寝落ちしてしまっていた。そして、スマホが湯船に沈んでいる。しかし、そこは防水仕様のXperia、以前同じように1時間以上水没させてしまったときも何事もなかったようにピンピンとしていた。今回も特段焦ることはなかった。

 しかし、しかしである。
 この日はどうも様子がおかしい。画面が明滅してまともに動いていない。

 風呂から上がってしばらく様子を見ても状態は変わらない。
 表現は難しいが、ホームボタンを連打しているような状態で、ロック解除しようと思ってもすぐにロック画面に戻ってしまう。

 これは悪い夢だ、寝て起きたら直っているんじゃないか、そう思って眠りにつく。

 しかし、目が覚めても何も変わっていない。

 水濡れ判別シールと呼ばれるものが赤く染まっている。しっかりケースまでつけていたにも関わらず、どこからか浸水して逝ってしまったようだ。

 何だか笑えてしまった。
 一度紛失して、奇跡的にいい人に拾われて戻ってきたかと思いきや、その恩人と飲みに行った日に水没して故障するなんて、こんな面白い話があるだろうか。

 助けたはずなのに助けられなかった、言うなれば岡部倫太郎の気分である。だとすれば、Xperiaはまゆりか。

 結局、その後上司に「スマホが壊れたので出社遅れます」と伝えた上で、ドコモショップに行き、補償サービスの手続きを進めた。

 今は、補償サービスで届いた全く同じ機種のスマホを使っているが、防水性能を過信してはいけないことを思い知らされてしまったため、風呂に持ち込むことが怖くなっている。
 しかし、悪いことだけではない。以前のスマホはイヤホンジャックがおかしくなっていて有線イヤホンではまともに音楽が聴けず常にワイヤレスイヤホンを使わざるを得ない状態だったのだが、今のスマホではそれが解消された。

 スマホを中心に、いろいろなことが起こった1週間だった。
 ただ、1週間トータルで見れば、プラスの方が大きかったんじゃないだろうか。

 そんな風に前向きに物事を考えられるようになったのも、リュウちゃんの考え方に影響されているところがあるのかもしれないなと思う。

 本当に、人生何が起こるかわからない。
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30代男。
三度の飯より鷹命。

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